2005年 07月 18日
追い上げ試験と棲み分けの可能性について これまで、軽井沢のニホンザル1群(100匹弱)と人間の生活が異常なほど近づきすぎていることを、様々な観察例を上げながら述べてきました。市街地において、サルと人間の共棲は不可能と考え、4月下旬から今日まで、人里ではサルの追い払いを行い、その中でも出来るだけ被害の出にくい山側に追い上げる試験を、2ヶ月あまりにわたって度々おこなってきました。 昼間は町から依託された「野生生物監視隊」が活動しているので、我々は早朝と夕方を中心に活動してきましたが、方向を定めての追い上げ試験は主として早朝、群れの活動開始時に行われたものがほとんどです。地図にピンクで示した領域が、昨年12月から半年あまりの間に観察した群れの遊動域で、青い線は4月下旬以降に行った追い払い・移動阻止・追い上げに位置です。詳細については、サル追いノートに日を追って記載してあります。ほとんどの場合、2〜5人で行い、サル追いの手段は、声・パチンコ・ロケット花火・爆竹などを使用しています。 この図の中ほど右寄りにある離山の東側に集中する追い上げ試験は、市街地への侵入を阻止すること、あるいは市街地からの追い払いを目的に試験されたものです。中央西側に集中する青い線は、軽井沢町の西部・南部に広がる畑作地帯への侵入を防ぐことを展望して、中軽井沢地区を南北に縦走する湯川(千曲川の支流)と東西に走る鉄道・国道18号を群れが越えないように阻止する目的で追い上げを試験したものです。中軽井沢駅から北上する国道146号(茶色の線)の西側では、侵入した群れを湯川の東岸に押し戻す事をねらって追い上げを試験しました。 追い上げ試験で気づいたことを列挙してみます * 群れが移動を始める早朝の方が、夕方泊まり場に向かう時間帯より一定方向への誘導が可能。早朝は大声・ロケット花火・爆竹等が使えないので、パチンコが中心だが、使える道具を考えたい * 移動を止めて侵入を阻止するには、見通しの良い場所に3〜5人必要。3時間ほどであきらめて方向転換する可能性が高い。 * 橋以外のところで川を渡る際、子連れの群れは躊躇するので、「湯川防衛ライン」で阻止するのは効果的で、阻止出来る可能性が高い。湯川にかかる樹木の枝を切っておくなどの対策も必要。 * 旧軽井沢地区への侵入は、繁華街よりも1kmほど手前で阻止した方がよい。繁華街に入られると、道具類が使用しにくいし、住民や来客の考えが多様で、摩擦を生じることもある。 * 離山・中軽井沢・千が滝地区など地元住民の多い所では、サルの追い払い・追い上げは当然と考えている人がほとんどで、積極的にBB弾銃やパチンコで追い払いに出て来る人も多いが、旧軽井沢商業地や別荘地の住民には、追い払いの必要性を浸透させることが必要と感じられた。 * 追い払いに際しては、町の広報車などの出動がのぞましい。追い上げの中・長期的方針を住民に周知させ、追い払う方向など、現場で指揮する人が必要。 * 塩ビ管を使ったロケット花火発射装置は群れの進行を止めるのには有効で、特に川や道をはさんだ場所から発射して侵入を阻止するのによいが、群れを一定方向に誘導するのには不向き。 * パチンコは競技用の強力なものではなく、おもちゃ屋で売っている百数十円のものをあえて使用し、小石を飛ばすことでサルはパチンコを取りだして構えるだけで逃げるようになり、サルに威嚇されやすい年輩者でも簡単に追い払えるようになる。 * パチンコやロケット花火を使用することで、サルは一定の距離を保つようになり、追い上げの人と人の間を突破しにくくなる。 * 爆竹はそれ自体ではあまり効果がないが、パチンコや直接追いかける前に鳴らすことでサルに恐怖心を与えることができる。また、周囲の住民にサルの存在を知らせる効果がある。 * 追い上げの際は出来るだけ群れを散らかさないようL字やU字の態勢で追い、散らばり過ぎた時には、一時動きを止めて周辺に回り込む。先頭集団と群れの中の一番大きい集団の動きに注意する。 * 住居侵入や人への威嚇を繰り返す「追随オス」が周囲に2頭いて、群れに馴染んでおらず、群れの若サルを威嚇し、群れの集団移動を阻害しているように感じられる。群れの一部を引き剥がし、分裂に至る可能性も考えられるが、雌ザルとの関係は不明。 * 簡易防護柵は狭い空き地を利用している家庭菜園では、周囲に立ち木があって、効果的ではない。ビニールハウスの骨組みに全面ネットを張り、下部を足場用鉄パイプなどでめくれないようにするのがお勧めです。 * 軽井沢という土地柄、鑑賞植物(特にユリ)の被害を無視できない。 * 群れ全体の個体識別にはかなりの時間と専門担当者が必要。特に目立った加害個体は識別が可能だが、それをねらって捕獲するのは簡単ではない。 * 観察期間中(約2ヶ月)に少なくとも3 件(他に目撃情報1件)の交通事故があり、うち2頭は死亡。連年出産(年子)の割合が多いのに、個体数が横ばいである理由が、交通事故にある可能性がある。交通事故は、サルのみならず、人間にとっても危険な状況である。 防衛ラインの設定 サルと人間が棲み分けをはかるとして、添付図の北東部の緑の部分は、サルの棲息地として想定した領域です。ほとんどが「長倉山国有林」で、その地域の植生調査を始めたところですが、草地・裸地・水面・路面などの割合はひじょうに低く、大部分が森林です。これまで歩いた限りでは、カラマツなどの針葉樹人工林に密植状態で貧困な植生の林が一部に見られますが、樹齢の高い人工林では混交林化が進んでいて、また沢筋を中心に広葉樹林も発達していて、全体の印象では、広葉樹の割合は3〜4割ではないかと考えられます。 現在の遊動域(ピンクの部分)は比較的広葉樹が多いとはいえ、市街地・路面・モミ林なども多く、広葉樹林の割合は6割程度でしょうか。役場では「サルが山に行かないのは、国有林がカラマツばかりで餌が無いからだ」という話がよくでますが、単純に面積と広葉樹の割合を考えると、緑の部分とピンクの部分は、サルの餌という点ではそれほど大きな差はないかもしれません。さらに調査を進める必要がありますが、ピンクの領域では面積あたりの餌の密度が高く、楽に餌を摂れるということだと思われます。春になって、タンポポ・フジの花・ニセアカシアの花・サクラの実・クワの実など、強い執着を示すエサが里に集中していて、国有林には少ないのも、市街地や別荘地を好む理由かもしれない。 湯川・国道146号に防衛ラインを設定して、町の西側に侵入させないという事は、過去2002年の夏、ピッキオによる追い払い試験でも試みられ、その話を聞いていましたが、今回は春期の2ヶ月あまりの間に試験を行いました。その結果、早朝に湯川を渡ろうとする群れを阻止することは比較的少人数(3人以上)でも可能でした。昼間や夕方の阻止にはまだ課題も残っていますが、湯川に向かう動きを早めに察知して、5人程度の人数がそろえば阻止する事は可能と思われます。昼間や夕方は人や車が多く、周辺との摩擦を避けるためにも、町の担当者による広報が望まれます。 旧軽井沢地域は観光客の多い繁華街で、商店も多く戸締まりによる被害防止が困難で、人間に対する直接的加害や交通事故の可能性が高い。商業地域への侵入を阻止するために、旧軽井沢防衛ラインの設定が必要と思われます。地域内からの追い払いが他に較べると困難であり、侵入経路にもよりますが1kmぐらい手前に防衛ラインを設定するのが効果的と思われました。早朝であれば比較的阻止しやすいのですが、昼間や夕方は特に人や車が多く、役場による広報が必要な場所です。これまで侵入阻止に成功したのは、北西の三笠パーク方向から一本松北側を経由して来た場合と、南西の東部小方向から雲場池付近を経由した侵入しようとして来た場合です。いずれも、早朝の阻止行動が特に有効ですが、昼間や夕方でも不可能ではありません。 旧軽井沢と湯川の間は、離山斜面から市街地に出さないよう、追い上げが可能と思われます。時間帯にもよりますが、この地域では地元住民が追い上げに参加することを期待できます。その際、広報車による呼びかけや、追い散らさないよう北への追い上げを指揮する態勢が必要です。 以上、きわめて大雑把ですが、地図上に水色で防衛ライン試案を書き込んでみました。当然ですが、その時の状況や季節によって変わってくると思いますが、一定の方針を定めて追い上げを行うことが重要と思われます。また、防衛ラインを設定して、東・南・西方向の行動をコの字型に制限することで、群れの遊動域が北に拡大するようしむけることが棲み分けにつながると考えられます。群れが実際に北へ移動するかどうかは、防衛ラインでの阻止行動を続け、さらに年々ラインを北へ上げて行くことが出来るかなど、全く不確定ですが、サルによる被害をなくすためにも、防衛ラインを設定して里への侵入を阻止することは重要な対策と言えるでしょう。 現在の遊動域のままで、電気柵・ネット・戸締まり等の防護策を講じながら、住民による追い払いで、「共棲」が可能という意見も聞かれますが、人口密度が低く集落・田畑・山林等の土地利用区分が比較的単純な農村地域とは違い、軽井沢は商業地・住宅地・別荘地・畑・山林等が複雑に混在しているため、スポット的防衛はきわめて困難で、大きくゾーン分けする方が効果的だと思われます。 この2ヶ月あまりの追い上げ試験・防衛ラインでの阻止試験で得られた結果の多くは、H14年度 「軽井沢町におけるニホンザルの被害防除と保護管理のための調査・対策事業 報告書」(ピッキオ)に記載されたものと重なります。また、宮城県がこの3月に出した「ニホンザル保護管理計画」の方針とも共通するものが多くあります。 エサを求めて移動することが多いサルの群れですので、季節によって試験結果も変わることが考えられ、さらに追い上げ試験を継続することが必要ですが、「全頭駆除計画」が破綻した現在、軽井沢町におけるサル対策の基本を「追い上げと棲み分け」に置いて、その具体化を模索する時期に来ていると思われます。
by k-saru-net
| 2005-07-18 23:04
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広く豊かな自然がありながら、市街地や農地を荒し回る軽井沢のニホンザル。人間とサルの望ましい関係を、観察と対策の実践の中から模索する人々のネットワークをめざしています。 by k-saru-net カテゴリ
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